田舎の家のささやかな畑で、今年も山芋むかごが生育し始めた。つぶつぶのピーナッツのような外観だが、わき芽が養分を蓄えて肥大化したもので、これが実は山芋の子供だ。一粒一粒が小さな山芋であり、また種子の役割も果たす。
山芋むかごの味を知ったのはつい最近のこと。都会で育った私たちの家庭の食卓には上らなかったし、市場で見たこともなく、これまであまり馴染みがなかった。
この記事の目次
山芋むかご|子孫を増やす強い生命力
山芋は根茎の種芋とばかり思っていたので、蔓先のむかごと両方で繁殖すると知ったときは、生命力の強力さに関心した。地上と地下の両方で子孫を増やしてゆく戦略だ。
むかごはとても精が強くて、いっぺんにたくさん食べられないが、塩ゆでにするとジャガイモみたいに、ほくほくと芳ばしくとても美味しい。皮に少し残る渋みの後味がクセになる。
むかご御飯は晩秋の季語にもなっている郷土料理だが、わが家では玄米を七分づきにして12時間ほど浸漬し一緒に炊く。炊き上がりの味は、山芋むかごのワイルドな風貌から一転して、他に例えようのない繊細な味わい。ほのかで上品な薫りが季節を感じさせてくれる。
収穫時期の9月下旬が待ち遠しい。10月に入ると粒が大きくなり、風味も深くなって味わいも増してくる。
紅あずま|酷暑を耐え忍んださつまいも
今夏の酷暑はこれまでにない暑さと日照りが続いた。7月までは、あまり旺盛で無かったさつまいもたちの葉や茎も、台風7号一過、大雨が降って立秋にさしかかる8月上旬頃には元気を取り戻した。
さつまいも類は、紅あずま、紅はるか、安納芋を植えている。無農薬・有機栽培の種芋を手に入れ、土に埋めて蔓を出して広げた。中でも紅はるかは、焼き芋にした時の甘くねちっとした食感を忘れることが出来ず、毎年植えている。
過酷な夏場に自然農で野菜を育てることは、なかなか難しい面もあり、できるだけ広い面積を植物の葉で被覆させるため、環境適応に優れたさつまいも類の力を頼みにしている。
それにしても、南鳥島付近で発生した台風7号が小笠原諸島を通って近畿全域に直撃するなんて、これまでの常識では考えられない進路であった。広い暴風域と風雨の強さは台風というよりハリケーン並みだった。
昨今は地球温暖化の影響でこうした異常気象の連続だが、本当に自然現象だけが原因なのだろうか。この台風が通過する前、北陸でも気温が38℃にまで達しており、海水の温度もかなり上昇していた。
いずれにせよ、危ぶまれる日本の農業にとって異常気象による天候の影響は甚大なはずだ。
里芋|水路を活用した群落
山桜の大きな木の下に、細長い水路があって地下の水脈と通じている。湿りの多い場所であったため里芋を植えたところ、毎年生育するようになった。京都府産の海老芋や大浦ゴボウなども付近に植えてみたが、何とか自生してくれるようになった。何もしなくても勝手に生えてくるのだ。
この勝手生えについては、うちのような小さな敷地内でも面白い事例がいくつもある。野菜のこぼれ種が自身で適地を見つけて勝手に生え出したりする。これまで、ニンジンや小松菜など、畑に蒔いた種よりも勝手生えの方がよく育ち大きくなるケースもあった。そして、そのまんまにしておくと花を咲かせて、たくさんの種子を残してくれる。
勝手生えから植物の本性に気づく
自然農法のパイオニア、福岡正信翁は植物の種子は自身で適地を見つけてひとりでに育つと仰っているが、確かにその通りだなあと関心した。生育に適した場所は、植物自身が知っているから、私たちに出来ることは種子をたくさん蒔いて試してみること。
ただし、何処が各植物の生育適地なのかはわからないため、福岡方式を見よう見まねで、複数の野菜の種子を粘土団子に練り混ぜて、敷地内にたくさん投げて蒔いてみた。しかし、当初はまったく上手くゆかなかった。
第一、何処に何の種子を蒔いたか、分からなくなってしまうくらい精通していない素人考えだった。そして、このランダムに種子を蒔く方式は、いつ成果が上がるかも分からない。あてどない挑戦であったため一旦あきらめていた。
しかし、勝手生えの不思議さに気づいた時、その言葉の真意を少し理解し始めた。土や種子にも潜在能力があって、その共鳴が植物を顕在化させる本質ではないかと思ったのだ。
そして問題は、私たちが土や種子の本姓をどれくらい理解し尊重し合えるかということ。
自然農の作物は小ぶりだが、どれもエネルギーが高く中身は詰まっている。地力に伴った謙虚で豊かな味わいがする。いも類は濃厚で甘くやさしい恵みの味で、働いて疲れた身体を癒やしてくれる。
植物との対話は、新しい発見に充ちていてとても楽しい。これから、秋の収穫が楽しみだ。
日本の食料危機についての考察|切り札はさつまいも?
おわりに、日本の食料安全保証について警鐘を鳴らし続けている農業経済学者・東京大学大学院の鈴木宜弘教授の、衝撃的なレポートを共有したいと思う。日本の食料自給率は、生産資材の自給率の低さも考慮すると10%未満という驚くべき現状を、今こそ認識されなければならないと訴えている。
これは緊急メッセージだ。
20年ぶりに改定される農業基本法(憲法)見直しの中間取りまとめ内容があまりにも現実離れしている。肥料・飼料・燃料の暴騰にも関わらず農産物の販売価格は上がらず、農家は赤字にあえぎ廃業が激増している中、国内生産への支援を早急に強化し、不測の事態に国民の命を守れるよう、食料自給率を高める抜本的な政策を打ち出すための見直しだと誰もが考えていたが、中身は違っていた。平時は輸入に頼り、有事には強制的な増産命令で凌げばいいというお粗末極まる内容で、食料自給率という言葉さえ出てこない。日本の食料安全保障の現状は脆弱で、目前に迫り来る食料危機は深刻化の一途を辿っている。今こそ、私たちが地域からのうねりで、食料・農業・農村が支えられ、国民の命・地域・環境・国土が守れるように、非常に重点的な政策を集中できる制度を、国政に反映させていく流れを作らなければならない。
さつまいもは個人的に大好きだが、食料安全保障とはまた別の話。
さつまいも頼みの発想では、有事の日本の食料危機を回避できるように思えないが、如何なものだろうか。
基調講演「知っておきたい食料安全保障問題」
講師:鈴木宣弘氏 東京大学大学院 農学生命科学研究科教授
身近な自然から気づいた事
山芋は根茎の種芋と蔓先のむかごの両方で繁殖すると知ったときは、生命力の強力さに関心した。地上と地下の両方で子孫を増やしてゆく戦略だ。
過酷な夏場に自然農で野菜を育てることは、なかなか難しい面もあり、できるだけ広い面積を植物の葉で被覆させるため、環境適応に優れたさつまいも類の力を頼みにしている。
さつまいもは個人的に大好きだが、食料安全保障とはまた別の話。
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