身近な自然と共生しているという喜びの源泉は、目には見えない何かが私たちに呼応してくれているサインに気づくことだ。精霊のはたらきとでも言おうか。
久方ぶりに白梅の木が実をつけてくれたのは、日本ミツバチをはじめとする花粉媒介者(ポリネーター)たちのお陰だと思うが、環境要因が過不足無く揃ってきたため実を結ぶことになったのだろう。
白梅の木が実をつけた
田舎の家の梅の木が、数年ぶりに実をつけた。
5月の終わり、白梅の木が実をつけたのは久方ぶりのこと。前庭に佇むたった1本の木で、ここの所なかなか実をつけなかった。枝ぶりも整えてはいるが、そんなに大きな木ではない。
2015年に10個ほど実を収穫し瓶詰めして黒糖焼酎に漬けてあったので、8年ぶりということになる。もう忘れていたが、この梅酒には蜂蜜入りの地黄エキスを一緒に添加していた。保存状態も良く、漢方薬のような独特の芳ばしい香りがした。
毎年3月はじめ頃には、白梅の美しい花を咲かせてくれる。七、八分咲きでほんのりと清らかな匂いが漂い出すと、どこからともなく日本ミツバチがやって来る。花を愛でながら、一緒に縁側で過ごす時間は格別だ。
今年の日本ミツバチはとても活発だった。蜜を集めるのと同時に受粉活動もしてくれている。梅の実は、その日本ミツバチの働きの恩恵で結実したのだろう。まさに花粉媒介者(ポリネーター)の面目躍如を果たしてくれた。
日本ミツバチの活躍
写真の日本ミツバチが、後ろ足に付けているのは花粉玉で、花蜜を集める時にいっしょに集めてくる花粉の塊だそうだ。全ての蜂が運ぶわけではないが、巣の中でハチミツとともに保管され、幼虫の食料や女王蜂が摂取するローヤルゼリーの原料として用いられる。栄養の宝庫と言われるローヤルゼリーは、日本ミツバチが運んだ花粉を食べて、腸で吸収合成された物質を咽頭腺より分泌して蓄積したものだ。というから驚きだ。
身近な自然と共生している感覚
身近な自然と共生している感覚はこの上ない喜びだ。周囲で起きる様々な現象に気づきながら、自分たちなりの方法で、出来ることを模索し続けられることは、本当に有り難い。生存するとは如何なることなのかを、謙虚に少しずつ実体験から学ぶことが重要なのだ。
梅の実にまつわる中国禅の話
まだ青い梅の実を見るたび、若輩の自分自身に照らして、いつもとある古い中国禅の話を思い出す。それは、こんな逸話。
中国唐代に馬祖道一(ばそどういつ)という天才的な禅マスターがいた。
馬祖は悟りを得た130人もの弟子たちを輩出した、中国禅の歴史における六祖慧能以降の最重要人物だ。
あるとき、大梅法常(たいばいほうじょう)という僧侶がその門下に入り、はじめて馬祖に参禅したときに尋ねた。
大梅「仏とは如何なるものでしょう」
馬祖「即心是仏(そくしんぜぶつ)、仏とは現在の心だ」
大梅はこの一言でたちまち大悟した。その後、彼は山に入り40年間たった独りで、悟後の修行に勤しんでいた。
そんなある日、馬祖は大梅の悟境を試すため、一人の僧侶を遣わせて質問させた。
僧侶「あなたはただ一度、馬師に会い、一体どのような言葉で悟りを得られたのですか」
大梅「馬師は即心是仏、仏とは現在の心だと言った」
僧侶「馬師は今となっては、異なった教えを説かれております」
大梅「どう異なるのだ」
僧侶「非心非仏(ひしんひぶつ)と説かれています」
大梅「それは人の心を惑わす揺さぶりだ。馬師が何と言おうと、私は即心是仏だ」
使者が帰ってこのことを報告すると、馬祖は評して言った。
馬祖「梅の実も熟したようだ」
現在の心とは、無心のことだ。これを究めた弟子の悟境を確かめ、師は満足したに違いない。その後、大梅の禅林には多くの弟子たちが集まってきた。
大梅は88歳で死ぬ直前、弟子たちに言った。
大梅「来るに拒むべきなくして、往くに追うべきなし」
そしてムササビが鳴く声を聴き、
大梅「このもの、他にあらず」
と言いおわるや寂滅した。
梅の実にまつわる、いにしえの禅マスターと弟子の美しい物語。
青い梅の実は、いつかきっと熟すものなのだ。そして自分自身も。
身近な自然から気づいた事
身近な自然と共生している感覚はこの上ない喜びだ。生存するとは如何なることなのかを、謙虚に少しずつ実体験から学ぶことが重要なのだ。
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