田舎の家の裏の山崖に、洞窟がある。
洞窟といっても、大人が3、4人入ることができるぐらいの小さなもので、人の手で掘られた人口の洞穴だ。
ここはもともと味噌蔵だった。横井戸といって大昔の冷蔵庫か貯蔵庫として使われていたようだ。最初は雑木に隠されていてわからなかったが、茂みを伐採したときに見つかった。中は綺麗なもので、多少掃除して入り口部分に、造園屋さんに頼んで石畳を敷いてもらった。
この洞窟には、もとから小さなコウモリが一匹住んでいた。私たちが気づくまで、ここを守ってくれていたようだ。
その小さなコウモリはしばらく見かけなかったが、最近またちょくちょく帰って来ているようだ。コウモリの寿命は長く、20年以上の個体も確認されているという。私たちがあまり洞窟に出入りしないので、好都合なのだろう。また異常気象や猛暑から逃れて、避暑にやって来ているのかも知れない。
そしてなぜか、いつも一匹でやって来ている。
歓迎するが、少数でも群れを作られると、ちょっと困るなあー
さて、今回はじめて彼の正体を調べるために、写真を撮影して解析したところ、典型的な洞窟性コウモリで、レッドデータブック準絶滅危惧種のニホンキクガシラコウモリであることが解かった。体長4~5㎝ほどの小さな個体で、休息している時の仕草はとてもかわいい。
洞窟は休息、休眠、ねぐら、冬眠場所として利用されるが、季節によって処を使い分けているようだ。うちの洞窟は御旅所みたいに中継地点として、遊びに来てくれているのだろう。きっと、居心地が良いのに違いない。
ニホンキクガシラコウモリは、昆虫の捕食者として森林の生態系の中では、とても重要な地位を占めている。分布は北海道から九州までと広域だが、洞窟の減少・消滅によって生息環境が悪化して、個体数が激減しているそうだ。
私たちのささやかな敷地内には、農薬や除草剤を一切使用しておらず、虫を敵にしない自然農に習って整備してきているために、彼らが好む昆虫が適度にバランスよく豊富にいるのか。
小さな生体環境がある程度、壊されずに保全できているのかもしれない。
ニホンキクガシラコウモリ|超音波ソナーで闇夜を飛ぶ
コウモリは空中を飛ぶことができる唯一の哺乳類だそうだ。彼らはどうやって、闇夜を自由に飛びながら、小さな昆虫を捕食できるのだろうか。その秘密は、超音波を出すソナーにある。
他のコウモリが口から超音波を出すのに対し、ニホンキクガシラコウモリは、鼻の穴から超音波を出す。獲物や障害物からはね返ってくる超音波を耳でとらえ、昆虫の居場所を正確に把握しているのだ。
ニホンキクガシラコウモリはとてもデリケートで敏捷だ。洞窟内は暗くて、なかなか撮影も難しかった。天井が低い小さな洞窟内で、1メートル圏内に近づくと音も無く飛び去ってしまう。2回ほど失敗したが、気づいたら居ない、まるで忍者みたいだ。
超音波は彼らのオーラであり、バリアみたいなものだ。彼らは超音波を発して会話したり、自身と他者との距離感を測ったりしているのだ。
マヤ暦|コウモリの月|インスピレーションと直感的感覚
1年が13ヶ月のサイクルで構成された神聖暦・マヤ暦では、7月26日から8月22日までをコウモリの月と呼んでいる。
メソアメリカで発展した、マヤ文明で用いられていたマヤ暦のはじまりは、52世紀前である。
マヤ暦は時間を意識エネルギーとして捉え、入れ子構造の様々な時間サイクルを、歯車のように巧みに組み合わせ、独特の神秘体系(紋章・音・色・時間・エネルギーを表す諸要素)を織り交ぜて、精妙にまとめられている。
中でも、コウモリの月は磁気の月といわれる。
マヤ暦から得られるインスピレーションは、しばしば占いや未来予測などに転用される。
磁気の月が指し示す叡智とは、コウモリが超音波をソナーから発するように、私たちの動物的な勘を松明(たいまつ)のように活用できるということであろう。
自身が引き寄せている現状を受け容れることや、感受性を繊細にはたらかせることで研ぎ澄まされる直感的感覚が、進むべき道を照らしてくれる灯明になるというメッセージだ。
太古の人間は超音波や磁気にも敏感だったのだろうか。少なくとも、動物を神の化身として尊び、仲良くして、その特性をよく観察していたのだろう。
闇の世界を司る不思議な生き物、ニホンキクガシラコウモリは、どうやら、私たちの微妙な生体環境のバランスを保ってくれている、神の化身であり、森林の守り神のようだ。
これからも、静かに見守っていきたいと思う。
身近な自然から気づいた事
ニホンキクガシラコウモリは、レッドデータブック準絶滅危惧種。
彼らは超音波を発して会話したり、自身と他者との距離感を測っているのだ。
ニホンキクガシラコウモリは、私たちの森林の守り神だ。
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